土の魚/ただのみきや
魚は形を失った
こっそり棚から取ろうと背伸びした
幼子の小さな掌から
するりと逃げ出したのだ
釉薬(ゆうやく)で青みを帯びて
濡れたような
しなやかな生の動態を
無言で秘めて微動だにしないまま
飛び込んだ
鏡のように凪いだ床へ
――硬い 鈍い響き
残ったものは陶器の破片と
しゃくりあげる 小さな顔
時は見えない神の作業台
人の目には不動の岩も
侵食され削られて往く
雨風の鑿槌(のみつち)
寒暑の鏨(たがね)
塵となり降り積もっては
やがて粘土層へ
山裾で青草を纏い眠っていたのだ
鳥や虫たちの歌にあやされながら
ある日ざっ
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