ダフネー2/本田憲嵩
 
{引用=
つやのある蟻のような円らな瞳で、住みついている栗鼠のようにや
さしく微笑みかける。いま柔らかな月光によって冷ややかにコーテ
ィングされながら、か細く流れる川の音のようにやさしくせせらぐ。
日々の生活の滲みが暗い銀としてこびり付いている、その痩せ細っ
た肢体、黒髪の枝葉を腰の辺りまで繁らせて、しっとりと夜の川の
ように。あるいはさらさらと星くずの散りばめられた煌めく夜空そ
のもののように。穏やかな北風はいま、その見事な臀部を、よりい
っそう冷ややかな球根形に仕上げるため、澄んだ水面にやさしく唇
を濡らしてから、もう一度その臀部につるりと接吻してゆく。幾重
にも幾重にも。
[次のページ]
戻る   Point(9)