悪左衛門/春日線香
 
てきたところだ
なんとなれば馬は孕んでおり
その生まれつつあるものが
悪左衛門であるらしいからだ

深夜である
芋之助が茶など飲みつつ馬を見ていると
馬は青白い膜の張った目を彼に向け
気怠げに出産の合図をする
彼らの間についに合意が成り立ち
いよいよ関係の精算がなされることになる
丸く張った腹に出刃包丁を当て
一息に切り開けばいいだけ
そうすればこの苦役から逃れて
二度と面倒事に関わらずに暮らしていける
悪左衛門などに関わらずに生きていける
芋之助はそう考えている

不思議な明るさに満ちたこの部屋で
馬と一人向かい合うのは
一体、何者であるのだろう
この特
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