血と百合の遁走曲/佐々宝砂
 
としか知らぬくちびるよ。
  キリスト再臨の時到るまで、
  目覚めることなかれ、
  父と子と精霊の御名において!

  薄明の墓所の地下、
  暗黒の柩に眠る青ざめた頬よ。
  おまえは死ぬことがない。
  しかしおまえは生きたことがあったか?

いずれにせよ百合は冒される運命にある。
彼が敬虔に祈るとしても。
聖書を掲げ、聖水を撒き、
サンザシの杭を尖らせるとしても。

さて、読者よ、物語も終わりに近い、
お気づきかも知れぬが秘密を告げておこう。
さよう、サンザシの杭は牙と同じものなのだ。
彼がそれを知ろうと知るまいと。

  私は眠りたいのだ。神よ。
  平安を。眠りを。
  この私に。

濃い霧のなか誰かが嘲笑う。
インキュバスか? 悪魔か?
魔女か? ラミアか?
いや、違う、


  彼女だ。


――吸血鬼たちへのオマージュ、あるいはある詩人への挑発的恋文
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