そこにいた奇跡/月夜野螢
あれは 梅雨が明けたとニュースでそう告げていた
夏の始まりの暑い日でした
日差しに凛と咲く花を抱えて あなたを訪ねた
花瓶に生けたブーケは 部屋には少し不似合いで
花はどことなく 居心地が悪そうに佇まいを直し
それが何だか 心地よかった
「ガーベラ?」
そう聞いたあなたをびっくりして見つめた
「よくご存知ですね」
少し茶化したら 少し照れたように
「ガーベラしか知らないんだ」
チューリップもひまわりも薔薇も
きっと知っているはず
それでも
「ガーベラしか知らないんだ」
あなたは そう言った
きらきらと暑い日でした 夏が始まる午前中
あなたはいつものソファに座って
見慣れない花束の前で 少し困惑して そして
照れたように 首を傾げて ガーベラを見つめ
そっと手を触れて
また 不思議そうな表情をした
その時 あなたの城壁を越えた気がして
愛しいと ただ そう思った
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