故郷/ふるる
生の頃よく
鍋に水をはって買いに行った
小型ケースに水はたっぷり
豆腐は底でまどろみ
八百屋のおじさんが
すい
水中からま白な大きな豆腐をすくい出す
四角い包丁を当てて手のひらの上で
すっ と
切る
やさしく鍋に入れて
太腿の上に乗せてくれようとする
すん と
鍋に泳ぐ豆腐の
冷たくなめらかな矩形
おじさんのよどみない動作
それが
わたしの故郷だ
(へんに太腿が冷たいので見ると
太腿の上に乗せた豆腐の鍋から水が
ちゃぷちゃぷとこぼれているのだった)
(ベビーカーに乗っていた頃の一番幼い記憶)
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