さくらもち/魚骨堂
 
汗ばんだ手のひらの上で春を転がして
その小さな重みを感じる
夜の町は霧に閉じ込められたまま
淡い街路灯のオレンジに色付いた水槽のように
音のない波が打ち寄せる

知らない街に行こうと思う
どうしてか分からないけど
この甘ったるい春の香る世界の存在する
水槽からはみ出た異質な自分を感じてみた

あるはずの家が消えて
見たはずの野原が消えて
気が付くとそこら中
見知らぬ藻がゆらゆらと揺れながら
佇んでいる

佇んでいるのは私
爪に桜の花なんて書いたのは昨日
今日はフロントガラスごしに見えるぼやけた世界を
春の言ってた柔らかさで包んでみた
包みきれない後のところは
迷いながら後悔しながら
さっき

食べちゃった


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