夕暮れを背にして/坂本瞳子
 
転んでしまえばよかったのに

足を踏ん張って
なんとか姿勢を立て直して
転ばずにすんだ

最後に転んだのはいつのことだったろうか
何年前、否、何十年前のことか

道路に平伏すように
大の字を描き
膝を真っ赤に擦りむいて
手のひらも擦りむいて
痛みよりも恥ずかしさで
涙をこらえきれずに
大声で泣き喚きたい

そんな衝動にかられる

だのにそうはしない

いやらしい大人になったものだ

そんな風に思いながら
颯爽と立ち去る
今日もまた
戻る   Point(0)