地球/こたきひろし
まだ
夜は明けていなかった
上野駅の構内
入り口に近いを通路の隅にござをひいて
その上に正座をしていた
極寒の早朝とは思えない身なりをした老人が
手を合わせていっしんに
お経を唱えていた
いったい何の真似だろう
そんな事をして
この世界に
一粒でもおおく
信仰の種でも蒔くつもりだろうか
何も変わらない
何も変えられない
世界には悪意が充ちているし
弱者は虐待を繰り返されてる
ばかりだ
なのに
どうして
老人はお経を唱えるのか
その内に老人の側に
いかつい体の若い男がやって来た
「気味悪いからやめてくれ」
最初の一言は柔らかく言った
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