時間が散らかる/伊藤 大樹
 
あと何分で着くのか
うなじに尋ねる

水辺で死ぬ と
予告されたひと月前
の雲を抱えている
やさしい人たちが
みんな一斉に
難民になる島で
私は呑気に
ひたすら食器を洗った

こわれた砂時計から
時間が散らかる
何をしたらよいのか分からぬまま
目の前の汚れた食器を洗うことしかできない
絶望を杖がわりにして
かろうじて息をし安らいでいる
みじかい永遠

呼吸を測ったら
まばたきの練習をする
その気になれば
料理だってできる
こわれた砂時計は
もうごみ袋のなか

水晶体に
深海をとじこめて
回る泡を見つめる
あと何分で着くのか
分からぬまま
タクシーに連れられる
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