たわしアーキタイプ/若原光彦
。確かめるまでもない。
ふと自分は、一体なにを、なんの役にも立たないことでせいているのだろうかと、無惨な気持ちが襲ってきた。たわしに疑義を唱えているのは世界中で私ひとりだろう。こんなことは誰も考えても望んでもいやしない。たわしと呼ばれるものがたわしと呼ばれていて、それでなんの不都合がある。たわしはたわしでいいではないか。
そんな筈はない! 遠い未来か別の宇宙か、きっとどこかにこの話の通じる世界がある筈だ! そこではたわしとたわしでないものが明確に区別され、そのことでたわしもたわしとしての尊厳を大切にされ、人はたわしに限らず多くの物事をより賢明に捉え敬っている筈だ!
だがもしそんな世界があったとしても。そこでも私は別のなにかにいきり立っているだけではないのか。別のなにかに。
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