たわしアーキタイプ/若原光彦
読めるのか。私にはわからない。
風呂場へ向かい、我が家のたわしを手に取った。そうこれがたわしだ。いわゆるたわし、本寸法のたわしである。ものを洗う際にこすりつけて使う。なぜ。こんなもので板をこすれば細かな傷がつくし、布をこすれば繊維を痛めるに決まっている。ではこれは、なんだ。
風呂場の鏡を一瞬、巨大なたわしが横切った気がした。こわごわ覗くと、当たり前だが私が映っていて、私の頭をたわしが覆っていた。違う。これはたわしではない。もちろん食べ物でもない。これは人の頭から伸びている、毛、そう毛の集まりなのであって、洗い物に使う道具ではない。じゃがいもの茹でて丸めて揚げたものや、頭の毛の集まりは、たわ
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