記憶がなくなれば永遠になることが出来る/ホロウ・シカエルボク
 
は頭を抱えて蹲る、いま口にしたばかりのものを吐いてしまう―君はすっかり慣れっこになっていて静かに僕に寄り添って背中を撫でてくれる。デジタルラジオはノイズを拾わない、だから僕が代わりにこうしてノイズを作り出している。夜はさらに冷たく、窓の外は黒の色合いを増す、部屋の明かりがすべての邪魔をしていることは判っているけれど、僕たちにはどうしてもそれを消すことが出来ない。



あんな甲高い混沌を抱えた毎日は何処に行ったのだろう。私は昨日退屈に飽き飽きして部屋の中を掻き回し、君の両親が記録していたラジオ・プログラムのテープを見つけた―再生機器を見つけ出すのは大変だった、なにしろ私はそんな機械をこれまでに見たことがなかったから…テープを入れて古めかしいボタンを押し込むと、おそらくもういまでは生きていないのだろう男女が楽し気に当時の流行や出し物について話していた、内容についてはなにひとつ判らなかったけれど遠い昔に生きた誰かの声を聴いているのは楽しいことだった。この世界には冬が来なくなり、夜は不思議なほど明るくなった…君は真っ白い骨になって、部屋の片隅でくしゃくしゃになっている。



戻る   Point(3)