遊歩療法/塔野夏子
遊歩しよう
忘れられた花園を
青ざめた果樹園を
影色の桟橋を
空中に漂う墓標たちのあいだを
谺たちが棲む迷宮を
天使の翼のうえを
玩具箱の中を
空へと伸びつづける孤塔の尖端を
傷だらけの絆を
欠落した記憶を
ふくれあがりつづける阿房宮たちのあいだを
向こう岸を知らない橋を
海王星のたそがれを
光を放つ痛みを
壊れてしまった約束を
不意の心臓の高鳴りを
虹が空に溶けてゆく際を
楽器の内側を
白い鳥が飛び去ったあとの虚無を
硝子細工のような囁きを
見えない旗のはためきを
遊歩しよう
僕らが遊歩することで
生まれる景色
生まれ変わる景色の中を
遊歩しよう
清らかな偶然に出くわすことを予感して
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