白髪の朝/ただのみきや
めて 失われて往く
美を競いあった蝶たちも落葉に埋もれ見分けられない
それぞれがそれぞれでありながら
誰かの夢の一節のように
手稲山の頂辺りに白いものが見える
季節はゆっくり早足で
待つ者には勿体付けて嫌がる者の寝込みを襲う
やがて裸の樹々は黒々と叫び踊る女たちのように
吹雪のベール纏うだろう
冬の歌声は鎮魂歌ではなく
消え去る生の灯の祝い歌 一瞬激しく震え
吹き消される誕生日のキャンドルにも似て
生は死によって全うされる その死に
春こそが手向けの花
野晒しに塵芥と化したものたちのため
祭儀の原型として
幾つ目かは数えられても残り幾つかは数えられない
白髪は増えるばかり あの山のようで
あの山よりも遥かにおぼろ一介の人に過ぎず
いまだ体温を惜しむ ほどけつつある命よ
《白髪の朝:2017年10月18日》
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