満月の残像/松本 卓也
出島バイパスを抜け
芒塚を過ぎたあたりで
今夜が満月であること
思い出し見上げてみた
トンネルを抜けて
帰ったら何か一節
詠えるような気になって
アクセルを踏み諫早を越え
大村に至るころには
再来週に予約している
飛行機代の支払いが心配で
東彼杵の道の駅に立ち止まる
川棚に至るころには
晩飯は何にしようか
明日は何時に起きようか
積み残した仕事は何だ
大塔の料金所を過ぎて
佐世保中央から見下ろす
米軍基地内の公園は
明かりの割に音は見えない
当然のように会社に寄って
仕事道具を机の上に
お疲れさまと声をかけ
一目散に家路を急ぐ
いつの間に雨が降っていて
一人の家は湿気ってる
何を詠う気だったのか
こんな事記したかったのか
雲に遮られた夜は
五時間前よりずっと暗い
掠めた月は瞼の裏に
像としてしか残らなかった
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