バランス/ただのみきや
開けっ広げの空からもったり雲は垂れ
街を行くコートの薄い色味が流れて溶けた
――秋だと言わせたいのか
枯葉のようなボートに突っ立った
底の見えない 危ういバランスの
冷たく仰向けだった大きな蛾が外の階段で
吹きかける息に葉脈のような部分を震わせた
奪っても与えはしないまるで兄弟のよう
今朝の風雨 痛みのない涙で
景色を染める 古い御影石へと
子供たちの眼差しが激しく空と戦っていた
季節の背を歪ませる無垢な黄金の重力に
滑空した目蓋のこっち 鴉みたいに何か訴えて
地面を見失うのは笑うこととそう違わない
底が抜けたような 冷たいバランスの
――秋だとでも
《バランス:2017年10月4日》
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