メモリアル・ムーン/ホロウ・シカエルボク
転がっている
おまえが産まれたのは
数十年に一度の月が太陽のように夜空で燃える
八月の終わりの夜だったね
いま、開け放たれた窓から見える月は
あのときのものほどではないがそれでも
やさしくこころを溶かすようなうつくしい満月だよ
青ざめたおまえの顔はわたしの膝にあり
おおきく開かれた目は叶わなかったいくつもの夢を見ている
おまえの顔を撃つことだけは出来なかった
心臓はすっかり失くなってしまったかもしれないが
こうしておまえを抱くのは何年ぶりのことだろう
なにが間違いだったのかもう判らない、判ったところでどうしようもない
わたしの血は決壊した堤防から溢れる水のように
血管の中で激しく暴れている
なのに額から流れるのは氷のような冷たい血だ
ずっと流れることがなくて胸の奥底で凝固した涙が
呼吸を奪おうとしているかのようだ
わたしはおまえのからだを苦労して起こし
寄り添うように壁にもたれたあと
まだ硝煙のにおいがする銃口を顎に押し当てる、アニー
アニー、もしかしたら
きみがいちばん正しい選択をしたのかもしれないね
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