夢描写、三度目/MOJO
 
車がゆっくり左から右へ走ってゆく。何十輌もあるのが当たり前の貨物列車だが、五輌しかない。
「短いな」
「景気が悪いからね」
 最後尾の車両には、なぜか、砂かけ婆のような老女がふたり、石炭の山の上にうずくまっている。
「あれはなんだい?」
「無賃乗車。みんな金がないんだよ」
「おまえは、どうやって暮らしているの?」
「修理工と小さな商いの魚屋だよ」
「魚屋か。あんな海で魚が獲れるのか?」
「獲れることは獲れるよ。質は良くないけど」
 踏切が空き、しばらく走ると、
「ここが家だよ。兄貴の部屋もあるから、クルマを車庫に入れて」
 大通り沿いにポツンと一軒だけある店舗併用住宅。外壁は、BXと似たような黄土色。見ると、車庫の隣に、鱗のないヌメっとした、鮮度が良くない魚が並んだスペースがあり、なるほど、小さな商いとは、これのことか、と納得する。とともに、私は、この地で暮らす覚悟を決めた。
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