踏まれた絵具の朝/ただのみきや
濡れそぼつ小雀たちの
ふるえる心音を
聞いているかのように目を瞑り
乳房を探していたのか
固く折り畳まれたままで蝕まれ
開いても開いても広げ切れずに
見つけられない 場所が ふと
蘇るような雨の 九月の 嗅覚
うっすらと燃えて咲くコスモスの水盤に
黒々とカオスは翅を休め
そのまま死んだ 沈黙の玉飾り
豊かすぎる貧者は夢の中で散る
抉り出した正気を眼球のように箱に仕舞って
《踏まれた絵具の朝:2017年9月16日》
「*世界夫人」はヘルマン・ヘッセ作、植村敏夫訳
「さようなら世界夫人よ」から借りました。
戻る 編 削 Point(7)