踏まれた絵具の朝/ただのみきや
 
静寂は ひとしずくの海
見つけたときに失くした
永い 一瞬への気づき
目覚めの夢の面立ちのよう


雨と風のかすみ網
囚われていつまでも
九月はつめたい考えごと


ひとつの確固たる彫像が
存在感だけそのままに
百万倍にも希釈され――


裾から素足が見えた
朝の扮装をして居続ける夜の


愛娘のように纏わる吐息
雨に穿たれ襤褸になり


九月の額で膝を折る
蝶はおぼろに濡れ燃えて
遠くゴルゴタの 光の一刺しが
沈殿して渦巻いた 獣より酸い
人の匂いを沸々と滾らせる


いまだ外殻を保ったまま
圧迫されて微塵の隙間もなく
交じり合え
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