ゆくえ たなびき/木立 悟
忘れられた日蝕の昼
川のなかにだけ映る布
川のなかだけを歩く影が
立ちどまり ふと振り返る
点いては消える午後の辺から
何かを引きずる音が降り
やさしいかたちの羽虫の群れ
曇を高みへ持ち上げてゆく
遠雷と遠雷が交わす言葉
囚われるものが見る金の霧
歌う氷山
歌わない氷山のはざまに満ちる
最も高い波の端に
指と花のかたまりがあり
くりかえし 泡の横顔に
降りそそぐ
蜘蛛の壁をよじのぼる陽
影の作る輪が朝になり
双つの星を巡りながら
巨大な肋骨の化石をくぐる
花に花は無く
葉に筆は無い
それがこの章の結末なのだと
目のなかの羽に記されている
破られ 踏みつけられた水布が
未来の国旗へと変わるとき
天と地の顎は閉じられ
無数の神々の首がころがる
求めても求めても得られぬ真の名
振り返るものたちの震動が
花を植えるもの 摘むものの背を
金の霧笛に変えてゆく
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