庭のおかあさん/田中修子
 

はじめに首吊りをこころみたのは小学生のころでした
失敗するごとになぜだか
庭の柿の木にだっこしてもらいにいきました

庭の柿の木は
だまって抱きしめてくれました
するとわたしはそこでいきなり
涙が止まらなくなるのでした

春には躍るようなキミドリ
夏にはいのちそのものみたいなま緑
秋にはしずかに炎色
冬にはまるで死んでいくように痩せ細ってはらはらしました
けれど耳当てれば息づいていて
かならず春がくるのです

にんげん が 甲高い声で叫ぶくせにおしえてくれなかったこと
庭の柿の木 が だまっておしえてくれたこと

ぜったいにまた、春はくるのです
夏もくるのです
秋には鮮やかに燃え盛るのです

呼吸さえやめなければ。
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