空虚するための九月/塔野夏子
 
そしてゆっくりと
身体から夏が剥がれ落ち
空虚するための九月がやってくる

白を纏う
夏のように
眩しさを反射するための白ではなく
とり残されるための 白

とり残されて
空虚する
空虚していると
やがてその空虚の中を
記憶が通過してゆく

経験の記憶
あるいは
経験していない記憶
たとえば
  行ったことのないはずの細長い岬の
  道をたどってたどりつく突端の
  小さな灯台

いつしか身の回りに
青い露草の花が揺れている


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