夏石女/ただのみきや
影かすめ
ふり返り だれも
――夏よ
荒ぶる生の飽食に晒された石女(うまずめ)よ
あの高く流れる河を渡る前に
刺せ わたしを
最後に残った一片の閃光をいま
仰向けに握った包丁のように
刺せ わたしを
そしてなにもかも忘れてしまえ
おまえが刺したのは圧制者
おまえが刺したのは略奪者
おまえが刺したのは嘲り蔑む者
無数の顔を持つたったひとりだ
おまえの穴だらけの影法師だ
理由を紛失した悲しみの
残りの糸をみな断って
ひるがえって笑え
千切れて飛び去る旗のように
ひとつの石が
おまえの夢を見続けるだろう
芯から亀裂が入るほど己へと固
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