いつか忘れるということ/ベンジャミン
空
亀は甲羅を背負い僕は何かを背負って同じように見上げるそのとき
亀の甲羅に詰め込まれた希望が見せる空がこの僕にあるだろうか
この重たい背中に背負われた何かが僕に何かを見せるだろうか
ガラスの壁に両手を突っ張っていた亀がゆっくりと倒れた
仰向けになって希望の詰まった重たい甲羅が水に沈む
短い手足をうねうねと動かしながら
よじることもできない不器用なからだを起こそうともがいている
それを見つめる僕は歯痒さを噛み砕きながら
亀が起き上がるその刹那に
空を
見た
それは確かに空だった
それが空であったことを忘れてしまいそうな自分を怖れ
急いで自分をくるんだ長く美しい手足で
薄く消え入りそうな背中から何かが抜け出してしまう前に
考えた
たとえいつか忘れてしまっても
僕はまだ覚えているということ
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