私はその家族を見ている/山人
 
れに、指の湿度を感じ念じながら種をまく
小葉を揺らす言葉が、高層湿原のように数千の夜を超え確かな現実となる
生まれた現実を皆で祝い、祝福の言葉を押し並べる
その言葉を発し続けることで、言葉はさらに現実を成長させてゆく
小さな現実を皆々が自愛の目で崇め拍手する、それは素直な心を広げることであり、自らの解放である
開放された現実は心を持ち、恩返しにくる
小冊子の中に静かに活字として埋め込まれ、不思議な薬効を発揮し始める
それらの人々は飾ることのない、些細で凡庸な事柄ですらも優しく捉え、美しく議論する
そしてそこから、小さくも形を持つ富が誕生し続けるのである
まとわりつく陰湿な襞を伸ばし、口を尖らせたり、なだめたりしながら動物の家族のように舐めあう
やがて富は彼らを覆うように存在し、あらゆるものを守り始める
天空の怒りや突然の粛清、そういうものですら屈しない富を手に入れる
それは一心不乱に農民が作物を作るときに唱える豊年の祈り歌のようでもある

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