凍寵/黒崎 水華
 
夥しい数の言葉が
壁一面に記されて
其処だけ羅列標本
        恋愛感情を剥ぎ取って
        継ぎ接ぎの怪物が孵化
        そんな夜半で御座った
赤い芙蓉が広がり
金魚の尾鰭が翻る
翳りの下へ滑空し
        市松模様の天鵞絨の幕
        喜劇と悲劇の睦まじさ
        舌根に蔓延る藤壺の念
こんな情景を混入
空白ばかり雄弁で
衣擦れが暗香疎影 
        引き連れる足音ばかり
        追憶を踏み潰してゆく  
        灰の中から拾い上げる
真白い奥歯の一つ
蟲が這い寄るのだ
舟は箱の形式で

(愛が沈んでいる)吐き出すように呟く

 

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