至福の鹿/ヤスヒロ ハル
夢の中でぼくは鹿であった
そして空を飛んだ
優しい獣毛がどんどん羽に変わり
いつしかぼくは
まあるい羽毛に包まれ
風に流されていた
そして、突風
綿毛は全て飛び散り
卵になったぼくは
グランドキャニオンに落下した
殻は割れ、赤い岩に染み出し
膝を抱えた液体のぼくは
地表になった
照りつける太陽が
すぐ近くに聖地があると教えてくれたので
ぼくは意識だけ移動させ
そういった場所特有の高揚感に生まれ変わった
まだ感覚として存在したことのなかったぼくは
誰かの中に入りたくて、
誰かに所有し
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