通り雨/梓ゆい
(トン・トン・トン。)
軽快なリズムで動く父の包丁さばき。
収穫したばかりの夏野菜の中からナスが二つ
銀色のボールからこぼれ落ちている。
オニヤンマが一匹部屋の中に迷い込み
茶碗を並べたテーブルの上を一周して
大きく開け放った窓から風に乗って通り抜けた。
味噌汁の香りが漂い始めれば
ご飯の支度を手伝いなさい。と
父は声を張り上げて私を呼ぶ。
少し不服な顔で
冷蔵庫から漬物と祖母が付けた梅干を
取り出した私は
青い陶器のお皿に出来るだけ綺麗に盛り付けた。
電灯の光りに反射をした青い波模様が
昨日から続く晴れた夏空にも似ていたので
遊びに行きたい気持ちを抑えつつ
出来たばかりのナス味噌炒めを
大きなどんぶりに移し変える。
父が飯を盛り食卓に着いた頃
外の景色は曇りだして
雷雨の音が大きく響き始めた。
丸めて取り込む
白いTシャツと花柄のスカートのオレンジ色が
腕の中で雨粒に打たれれば
収穫を忘れたパプリカの色にも見えて
裏の畑の野菜達が
雨の中で寂しそう。
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