奇跡/吉岡ペペロ
 
奇跡をたたえるのだとしたら、ゴルフを考え、取り入れた人間にだ。
いったい誰が、取り残されたというのだろう。
奇跡が鳴っている。
讃美歌が鳴っている。
寄るべなく哀しみを行く人間に。


蒸し暑い炎天のなかゴルフをする。日本で五本の指に入る名門コース、ジャック・ニクラウス設計のハードなコースだ。
一緒に回っていたひとりが突然ラフにゲロを吐き出した。酒を飲み過ぎたわけではない。熱中症だ。
キャディがクラブハウスに彼の迎えを呼んだ。水を渡し、手ぬぐいを渡す。背中をさすり、さする手を止めて置く。後続の組には先に行ってもらった。
哀しかった。人生には失礼だけれど、背中に手を置かれているひとを目の前にしていたのだから。神はいるだろう。人間がいることほど確信はないけれど。
彼は迎えにきたカートに乗せられてクラブハウスに消えていった。

奇跡をたたえるのだとしたら、ゴルフを考え、取り入れた人間にだ。
いったい誰が、取り残されたというのだろう。
奇跡が鳴っている。
讃美歌が鳴っている。
寄るべなく哀しみを行く人間に。







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