遠い世界の夜/ホロウ・シカエルボク
うしても判らなかった、必要なものをポケットに入れ、部屋を出て鍵を閉めた、エレベーターで一回まで降りてエントランスに出、部屋の窓を見上げた時、(もうここに帰ってこなければいいのだ)という考えが頭に浮かんだ、それなら、のこぎりを買う必要もない―タクシーを拾って、空港に向かった、一番早いフライトの切符を買って、たどり着いたのは寒いところだった、そこから自転車を盗んで一日中走った、夜がとっぷりと暮れた頃に、海沿いの小さな町に着いた。海岸に自転車を捨てて、宿を探した。四階建てのビジネスホテルを見つけ、出鱈目な名前と住所でチェックインした、鍵を受け取って部屋に入ると、そこには居ないはずのものが居て、「お帰り」と俺を出迎えた。
戻る 編 削 Point(1)