鞴 -ふいご-/藤鈴呼
あなたが ゆっくりと 息を吸い込む
「ふいちょう」
唇が その形に動く ゆるやかな流れとともに 水の音が響く
雨なのか 風なのか さざめく空気感は いつだって おんなじで
記号の向こうに忘れかけていた風が見えた気がしました
「ふいちょう」
唇を すぼめたままのアナタが
少しだけ ニヒルな角度に浮かべた 唇と唇の間の一本線が
何時からか 二重に見える
きっと眼鏡が合わないのだ
きっと 泣いているのだ
もしかしたら 近眼なのかも知れない
根暗だったのかも知れない
塒(ねぐら)なんて 探さなくても 見つかるさ
君はそう言いながら 湖に ゆっくりと浸かる
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