虹を探す/吉岡ペペロ
 
るわけもない。
さっき指導した部下がめのまえに立っていた。犬のうなり声がまた始まった。きょうはなんでエアコンが犬の声に聞こえるのだろう。

部下がなにか話そうとしている。犬のうなり声のこと、こいつに聞いてみようか。意外になにか教えてくれるかも知れない。
あしもとの虹を探しながらため息をついた。このため息を部下が気にしないように、こちら側から口を開いた。

犬のうなり声が部下の顔や肩や胸にかさなってぐるぐる回った。コーヒーを口にふくんで喋るのをやめた。
目に見えていた音がやんだ。疲れていたわけではない。いつもとおんなじイライラとした日々。

さっきの虹の色、その色の順を思った。
あしもとに虹はまだあるのか。虹を確かめずに目を閉じた。なにか言いかけてこらえるようなうごきを唇にさせていた。
どうでもいいような空気がながれて目をあけた。虹を探そうとしてやめ、部下の顔に視線をあてた。胸を、肩を見やった。そして犬のうなり声のわけを部下が話し始めるのを待った。





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