散文/哉果
 
た、まっとうな人間のようじゃないか。勘弁してくれ。矮小で、あってもなくても同じつくりものの観葉植物のように、誰も俺の名を知らず、悲しまず、喜ばない存在でありたいんだ。俺を見て何も感じないでくれ。思い出すことも忘れることもしないでくれ。そうでないと、俺はどうにかなってしまいそうなんだ。」



昌孝に傷つけられる日をわたしは望んでいた。彼が何者をも傷つけないということは、彼が何者をも許すということだった。彼は違うことなく優しい人だった。いつも微笑んでいて、ごく稀に苛立っているそぶりを垣間見ても、その色は鯉が餌を屠るより早く失せてしまう。



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