日向の標本/ホロウ・シカエルボク
 
してみるべきだと思った、おれは左わきを下にした状態で寝ていた、右の手のひらを床に着き、グッと力を込めて上体を起こした、すると右の指はひび割れ、湿気で固まった塩が揺すられて崩れるみたいに静かにゆっくりと崩れた、それは手首に広がり、やがて腕に上がり、肩までを完全な粉にしてしまった、おれはもう倒れることは出来ない、と思った、不格好に起き上がった状態のまま硬直していたので、居心地が悪かった、せめて正面に起き上がろうとして腰をずらすと、そのまま腰骨の周辺が崩れ落ちた、おれの状態は達磨落としのようにすとんと床に落ちた、「欠損だ」とおれは思った、おれは欠損している、もはや頭と、左腕と胴体だけのいきものだった、脚は少し離れたところでだらんと横になっていた、そうしてそれも次第に塩のように崩れた

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太陽がこんなものを照らし続ける理由が判らない、おれは唾でも吐こうかと思った、そうしたい気分だった、でもそれをすることで、またどこかが崩れてしまうのは嫌だった、ラウンジの日当たりはよく、そしてそれはいつまで続くのか依然判らないままだった。

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