邪心/ヒヤシンス
記憶の彼方に浮かぶ一艘の客船は時を巡る。
大海原は凪いでいる。
トランス状態に入る前の静けさに音楽は語る。
安らぎはいまだ訪れはしない。
多少の情緒不安定は正常だ。
海は波を伴って人生の経路を捧げる。
出航前の生贄は私だ。
奇妙なぐらい心は沈黙している。
差し出すがいい、君の心臓を。
赤黒く燃えている君の鼓動を。
サンバのリズムに踊る心臓を君は持っているか?
デキャンタに注ぐ私の血潮に火を点そう。
ナイフで心臓を抉り出し、頭の皮を削ぎ落とせば発狂した過去が笑うだろう。
それはもはや記憶ではなく現実なのだ。
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