浸蝕/伊藤 大樹
ガラスの表面を
汗とも涙ともつかない水が伝う
過去を鋤きかえし
クチナシを活ける
日々寄せては返す悔恨は
わたしが築いた防波堤を
かるがる越えてみせる
((( それさえも憎めない私は
よわいのでしょうね、
貧しいわたしの埠頭の
わずかな亀裂にも
雨は容赦ない
クチナシに水をやる
花瓶の底に沈んだままの十円玉が
少しずつ腐蝕して
やがて 泡をふくその瞬間
((( 枯れるまでの一瞬
私のいのちの何個分の
キョウチクトウが
焼けただれた皮膚に咲いた
かなしみを咲き誇っている
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