初夏/オイタル
 
初夏
夕暮れの玄関先で
ぼくは妻と出会った
妻は僕に笑いかけ
菓子パンをひとつまみ
ちぎってくれた
そして
ひどい人のことを思い出して
また笑った

梅の木の根の周りの
浅い草むらに頼りない風が留まって
妻は片足を浸している
ズボンの脛をまくりあげて
それはとても好ましいことだった

地球の自転速度は時速1300キロ
菓子パンを食べながら
僕達は1300キロの宇宙の風に吹かれて手をつなぎ
公転速度107000キロの静けさに怯えて
抱き合う

もうしばらく前から
妻の額は朽ちかけて
何度も車列をはずれている
丸みのある初夏の夕暮れ
空から散ってくる
風の紙片を小山にして
僕たちは久方振りに
長く長く
手足を浸していた

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