夏空の景色/梓ゆい
 
小さな足音が一つ
駅の階段を降りて来る。

24.5度の空の下
大きな麦わら帽子を被る小さな身体は
今着たばかりの電車の中へ消えていった。

次の瞬間
麦わら帽子と入れ違いに
ホームへと現れた君を見かけて
降りていた階段を途中で立ち止まる。

左手に持ったままのペットボトル
小さな泡を立てているソーダ水は
早くなる鼓動を抑えようとする
私の心を表すかのようだ。

向かい側の通路から
ホームを目指して君が歩いてくる。
左腕の時計を眺めつつ
茶色のハンチング帽子を被り直して。

(追いかけたいのは何の為?)

今通り過ぎたばかりの君に声をかけたくて
私は人の流れに逆らいながら
全力疾走で引き返した。



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