日々、アイロニー/伊藤 大樹
 
忘れもしない
あの夜が
まったく白かったこと

遺書には
サヨウナラ
とだけ 彫られていて
見知らぬ隣人にも
陽がつつ抜けであったので
街は灰に
足もとを焦がし
渇いて
改札を抜けた
それが昨日

無駄だったかもしれない
と云ったから
ニンゲン、生きてることの大半は無駄
と毒を吐いてみる
五階に吹込んでくる風に
たやすくわたしは幸福になり
思いがけないひと言に
たやすくわたしは絶望する

窓の内側に本を積みあげ
あすをこばんでも
容易に減りも増えもしない日々は
消え去ってくれず
むしろひどく切りつけてくる
わたしではない者が
あらゆる角度から
にらみつけ 罵ってくる
その
意味の暴力

きれいね、
と云いながら
紺青の光をふくんでいる
ガラスの灰皿に
血ばかりが積っていって
わたしのあすを
完全に/うつくしく
台無しにする
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