子よ、おまえに歌を教えてあげよう/ホロウ・シカエルボク
 
とはもう微塵も覚えていなかった

その声は少年のように高く澄んでいた
どんな空の時でもその歌は聞こえた
景色のように淡々と流れていた

途方もない時が流れて
壊れたものはもうぼろぼろの寝台の上から動くことはなかった
もううたうことも出来なかったが唇は僅かに旋律を辿っていた

壊れたものの呼吸がたった一人で止まるとき
壊れたものの脳裏にそれまでの人生が色となって蘇った
その膨大な色彩のなかで
壊れたものがたったひとつ見つけたのは果てしない絶望だった
壊れたものは悲鳴を上げようとしたが
そんな力はもうどこにも残っていなかった

壊れたものが朽ちた寝台の上で躯になり
薄汚い肉の塊になり、それから
枯れた枝のようになって風に消えた後
ふたつの盃のひとつの酒はこぼれ
空の盃には小さなひびが入った
壊れたものの骨がからんと音を立てて寝台から地面に落ち
それ以上のことはもうなにも起こることはなかった




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