子よ、おまえに歌を教えてあげよう/ホロウ・シカエルボク
ふたつの盃が並べられていた
そのひとつには、なみなみと酒が注がれ
もうひとつは、空のままだった
そのそばで男は働き、女は子を生した
男は働き続け、女は育て、子はすくすくと育ち
そうしていつか、二人のもとを離れた
男は働き、女は飯を炊いた
ときおり、残り火を確かめるように抱き合ったけれど
もう、子を授かることはなかった
ある強烈な夕焼けのころ、男は力尽きた
女は男の手を取り、彼の最後の呼吸を静かに見て取った
月は切傷のような三日月だった
女は祈り、自らを生かすためだけの暮らしを続けた
それは簡単な縫物を作って売ることだった
彼女一人が生きるにはそれで充
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