浮上するサイレン/霜天
 
あたたかい あさ

濡れた地図の上に書き込んだ名前は
滲むように、消えた
始まれない私は
いまだにまるい船の上です


 警笛は
 遠い雲のこと
 進まずに消えるのは
 あの空へ


破れかけの地図を
後部座席に貼り付けて
静かなアクセルを、踏み込む
二つに分かれた景色の中で
いつまでもこの足
引きずっているものは
たったひとつの
足首を洗えば軽くなる少しだけ
そのくらいの


 踏み込んだ
 景色は遠く
 白と黒とに
 嗅ぎ分ける音


浮上するサイレンのようなどこかから
私の、私たちの、耳をふさいだその奥から
湧き上がる回答は、
[次のページ]
戻る   Point(7)