夢夜、三 「孔雀いろの鍵」/田中修子
苦手だったのに、吸い込まれるように鍵の片方を受け取った。
孔雀いろの中に、スーパーの行き帰りに陽に照らされて青い海や、あのうちを季節ごとに飲みこもうとする葛の葉の生き生きとした緑色、少女が着るような赤いワンピースを着て眠りこけていたあのころがくっきりと見える。
私は、息を飲んだきり止まってしまうような気分になった。
いつのまにか私の胸のあたりに鍵がぶらさげられていた。
あのうちにはほんとうには鍵を必要とする扉はいっこもなかった。泥棒ですら素通りするだろうぼろぼろの、いまはもう駐車場になってしまっているあの横須賀のうちの、だが、鍵だった。
「ありがとう。お返しに、この家の思い出の鍵を渡したい。少し待っていて」
気が遠くなるような時間、四つん這いになって私はこの家の鍵を探した。
しかし、この家に思い出と言えるものなどなにもなく、あるとしてもいやなにおいを放つ錆びたようなやつであることはなんとなくわかっていて、触れれば体が吸い込まれるようなからっぽをただ永遠に探しているのだと分かったときに、目が覚めた。
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