ミューズへの恋文/ただのみきや
 
虚への奉納 自らの魂への 


咆哮の中にすらか細い声が隠されているのか
嵐の夜の 遠い篠笛のように
石の心をも穿つ 秘めやかな落涙のように
毅然としている いつも自分に対して
親切ではない誰にも寄り添わない声
だからこそ駆け寄ってしまうこの腕がいくら空しくても
個人的で平和的ではないメタファーが
麻酔もなく移植された
いつまでも縫合されないままの胸を重ね合わせたい
身悶えするほど愛おしい
揺れる無数の鬼火の
ひとつに過ぎない
わたしにひと時の夢を施して


何処へでも通じていながら
いつも終着終のような舞台に立って
芸術よりも甘く 熟れ過ぎて
腐り落ちる 瞬間の 真実という
虚構の果実を見えない涙で洗っている
微笑みながら理屈を灰にすべての――
あなたは鍵 わたしを開く




           《ミューズへの恋文:2017年6月10日》










戻る   Point(8)