初夏に。/ヒヤシンス
山の麓の小さな村に今年も初夏がやってくる。
黄昏時の老人が野菜を背中にしょっている。
雁の群れが西の空に飛んでゆくのを目で追うと、
彼方の空には一番星が瞬いている。
憧れの初夏。
青春の初夏。
時を経ても未だにワクワクするこの気持ちは何だろう。
懐かしいものはやがて大切なものとなる。
音沙汰なしのあの人は元気だろうか。
父に先立たれた母は元気だろうか。
思い出が増えてゆくにつれ悲しみも増えてゆく。
この村は初夏を迎える感情で溢れている。
眩しい夕焼けの中、私の心も満たされてゆく。
初夏の解放はいつでも私の胸を打つ。
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