天気雨/伊藤 大樹
 
やさしさが微熱をともなって
別れのための雨を育てている
窓の雨だれのしみのように
眼球のネガに面影を与えている
あの日の穏やかな君の寝顔

ふりむくともう風景になっている
わたしの中枢へとたしかに続いている
鈍色の記憶のドアノブを
苦い断念とともに握った

階段を昇りきると
沈んでいる言葉が
あらゆるわたしの胞衣から走り
雨なしでは別れられない二人となって
残された余地の
わずかな陣地に降る雨に
投函した最後の手紙の
消印はにじみ

泣きたい感情とは裏腹に
青い空に風が光っている


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