「しずくいろの初夏」 一〇首/もっぷ
春みそか初めて電話で聴く姉はデジャヴのような懐かしい声
姉ひとり妹ひとりの生活を東京のなかで思い描く夜
両国の回向院まで手を繋ぐ姉と妹みずいろの初夏
港町夕焼け市場の小母さんの「仲が良いね」に赤らむ姉妹
白樺の森で遊んで日も暮れて迷子の姉妹と夜だけの空
姉だから妹だからそれだけで満たされる日日ひとの世の怪
土曜日はリボンを解いて姉さんと未明を通過する汽車に乗る
笹舟をひとりで見てる薫風がすこし涼しい記憶のほとり
「お届け物です」千代紙の香は昭和きのう送ったはずの姉から
焼べたのは一枚の紙A4の夏の思い出まぼろしの明日
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