誰も知らない/涙(ルイ)
今日 ひとりの男が電車に飛び込んで死んだ
理由は誰も知らない
朝のラッシュ時だった 駅は通勤客でごったがえしていた
アナウンスが流れる
「○○駅にて人身事故のため 電車大幅に遅れています」
人々は口々に云う
「この忙しい時間に」「死ぬなら他でやればいい」と
男はとある出版会社に勤めていた
毎日が残業の日々だった
月300時間を超えることもザラだった
上司に窮状を訴えたところで
俺たちの時代は 残業なんてまだマシなほうで
徹夜なんてこともよくあったな などと
云われるだけならまだしも
仕事もできないくせに生意気云うな と
いらぬ説教をされるのが関の山だった
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